すべてを受け入れる
スーパーで試食を断るのが苦手だ。いったん食べてしまうとその商品を買わずに立ち去るのが心苦しい――などと考えていて、ふと気づく。
なぜ断る必要があるのか。
なぜ買わずに立ち去る必要があるのか。
たしかに無用な商品を勧められる場合が多い。だが秋口はそれほど困窮しているわけではない。せいぜい数百円の出費。それならば、精神的苦痛から逃れるためならば、数百円など安いものではないか。
そう考えをあらため、ものはためしと、試食の勧めをすべて受け入れてみる。試食した商品を片っ端からカゴに入れてみる。ラム肉、ソーセージ、ふだん購入する牛乳よりも50円ほど高い牛乳、などなど……。
するとどうだ。売り場の女性たちは高いテンションで「ありがとうございます!」と言ってくれる。「ラム肉は焼き肉のタレで味付けて、もやしと一緒に炒めるとおいしいですよ!」などと調理の指南までしてくれる。
すばらしいではないか!
試食をすべて受け入れることで、秋口は「ふだん自分からは絶対に買おうと思わない商品」を購入できた。しかも料理のレパートリーが増えた。世界が広がった、と言っても過言ではない。そして、売り子の女性たちの顔には、とびきりの笑み。
まさにウィン・ウィンの関係。