愛すべき阪神電車

電車で移動する。
父親と息子、娘の3人組が乗ってくる。息子は小学校3年生ぐらい、娘は幼稚園児ぐらい。
父親が携帯でだれかと話しはじめる。
息子がガムで風船を作る。それが弾ける。妹の髪の毛にくっつく。
「うわ最悪や!」
「ああ? おまえ電車の中では静かにせえや……おいそれなにしてんねん!? うーわ、完全についとるやんけ!?」
「こいつが前に来るから……」
「ええから触んな! 触んなやよけい取れへんようなるから。おまえじっとしとけ!」
父親が息子を殴る。息子は不満げに口を開きかけるが、さらに殴られてだまる。妹はなぜかほうけたように前の外を見つめている。
父親が携帯に向かってがなりたてる。
「うーわ最悪や。ほんま最悪やで。息子が妹の髪の毛にガムつけよった。絶対に取れへん……おまえ、ええから! 触んな言うてるやろが! 死ねボケ!」
父親がふたたび息子を殴りつける。
秋口は「ああ、こういう家族、戸梶圭太さんの作品によく出てくるよなぁ」と思う。